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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)36号 判決

【主文】

特許庁が昭和五六年九月二八日、昭和五五年審判第二六九四号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

【事実】

第二 請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

本願発明は、発明の名称を「感圧破壊性材料による両面被覆紙製造方法」とし、昭和四六年九月一〇日に特許出願され(昭和四六年特許願第六九七七七号)昭和五三年八月二日に出願審査請求がされたものである。審査段階では昭和五三年一一月二七日、二つの公知文献(1「染料と薬品」第九巻、第七号、一九六四年、九頁、2「染料と薬品」第九巻、第九号、一九六四年、四頁)が引用され、特許法第二九条第二項にもとづく拒絶理由通知が発せられ、これに対し、原告は昭和五四年九月五日に意見書を提出した。しかるに、昭和五四年一〇月一八日、拒絶査定があり、該拒絶査定謄本には米国特許第三四八五二〇九号明細書が参考例として新たに挙げられていた。そこで、原告は、昭和五五年三月四日審判を請求し、昭和五五年審判第二六九四号として審理されることとなつたが、昭和五五年四月三日に本願明細書の補正を行ない、審査前置に移管されたが、昭和五五年八月六日付にて審査前置の解除通知があつた。ついで、昭和五五年一〇月三〇日、二つの公知文献(米国特許第三五三五一四〇号明細書、2「染料と薬品」第九巻第七号、昭和三九年化成品工業協会発行、九頁)が引用され、特許法二九条第二項にもとづく拒絶理由通知が発せられ、同年九月二八日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は同年一〇月二一日原告に送達された。なお出訴期間として三ケ月が附加された。

二  本願発明の要旨

片面に一様な感圧性カプセル被覆を備え、反対面に形像発現白土被覆を備えるカプセルで被覆されたノーカーボン紙の高速度製造法において、ボンド紙の無端シートの片面上に水性白土被覆組成物を塗布計量し、白土被覆したシートを連続的に乾燥帯域に進めることによつて水性白土被覆組成物から水分を除き、白土被覆したシートをカレンダー処理して該白土被覆を平滑となし且つシートを緻密化し、このカレンダー処理工程の直後に連続操作として白土被覆の反対シート面に圧力破壊性カプセルの水性乳化被覆を塗布計量し、エアーナイフ処理し、得られた両面被覆したシートを該シートとほぼ同じ線速度で移動する支持表面上に乳化被覆層を上側にして無張力状態で支持しながら乾燥帯域を連続的に通すことによつて水分を除去する工程からなる、カプセル被覆したノーカーボン紙の高速度製造法

三  審決理由の要旨

本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

ところで、米国特許第三五三五一四〇号明細書(以下「引用例」という。)には、エンドレス・ウエブのように一直線方向へ、薄い、非吸収性の紙匹を連続的に動かし、第一被覆として紙匹の一面へ液状の色形成物質の圧力破壊可能なカプセルを含有する水性乳化被覆組成物の計量された特定量を連続的に塗布し、この被覆組成物を濡れている間にエアーナイフで修正し、紙匹上の被覆組成物を一様に分配し、乳化層側を上にしてコンベーア表面上へ無張力状態で支持しながら乳化層を乾燥し、第二被覆として水性の白土被覆組成物を紙匹の他の一面に塗布し、この被覆組成物を濡れている間にエアーナイフで修正し、紙匹上の白土被覆組成物を一様に分配し、続いて白土被覆を乾燥する各工程からなり、前記の各工程が全て連続して行なわれることからなる、カールがなく、紙匹の向い合つた面上に平らな被覆を形成した、無色のカーボン紙を高速度で製造する方法が記載されており、さらに、従来方法として、乳化被覆組成物が圧力に敏感であつてカプセルが圧力により破壊されることがあるので、紙匹には最初に白土被覆組成物を塗布することが通常行われており、その場合乳化被覆組成物を施す前にカレンダーがけを行うこと、また、乳化被覆組成物の塗布工程については転写ロールと計量ロールと係合するアプリケーターロールで塗布するが、転写ロールの底部が皿の中の乳化被覆組成物に浸つており、アプリケーターロールで紙匹の裏面へ乳化被覆組成物を過剰に塗布すること、白土被覆組成物の塗布工程についてはガイドロール間を通る紙匹の一面に接しているアプリケーターロールでクレー被覆組成物を塗布するが、アプリケーターロールが転写ロールとで支持され、転写ロールの底部で皿の中の被覆組成物をすくい上げることが示されている。

また、連続して移動する紙匹へ、白土被覆組成物をスライディング・ローラー・コーターで塗布し、乾燥部を通して乾燥させ、その後紙匹をブレーカー・スタックを通してカレンダーがけを行ない、引き続いて圧力破壊性カプセルの水性乳化被覆組成物を鋸歯状突起を備えた粗面状の弾性外面を有するアプリケーターロールで裏面に塗布し、直後にブレードで被覆層の表面を平滑化し、乾燥部で乾燥することからなる、片面に感圧性カプセル被覆を備え、反対面に形像発現白土被覆を備えるノーカーボン紙の高速事(ママ)製造方法は、本出願前に公知である(必要ならば、原審においても参考例として引用された、米国特許第三四八五二〇九号明細書、特許庁資料館昭和四五年五月一三日受入、参照。)。

本願発明と公知のものとを対比すると、両者は、片面に一様な感圧性カプセル被覆を備え、反対面に形像発現白土被覆を備えるカプセルで被覆されたノーカーボン紙の高速度製造方法において、無端シートの片面上に水性白土被覆組成物を塗布し、白土被覆したシートを連続的に乾燥帯域に進めることによつて水性白土被覆組成物から水分を除き、白土被覆したシートをカレンダー処理して該白土被覆を平滑となし且つシートを緻密化し、このカレンダー処理工程の直後に連続操作として白土被覆の反対シート面に圧力破壊性カプセルの水性乳化被覆を塗布し、得られた両面被覆したシートを乾燥帯域を連続的に通すことによつて水分を除去する工程からなる、カプセル被覆したノーカーボン紙の高速度製造方法である点で一致しているものであるが、(1)用紙として、本願発明のは、ボンド紙を用いているのに対して、公知のものが、紙匹を用いるとした点、(2)水性白土被覆組成物の塗布工程について、本願発明では、塗布計量するとしているのに対して、公知のものが、スライディング・ロール・コーターで塗布するとしている点、(3)圧力破壊性カプセルの水性乳化被覆の塗布および乾燥の工程について、本願発明では、塗布計量し、エアーナイフ処理し、被覆したシートとほぼ同じ線速で移動する支持表面上に乳化被覆層を上側にして、無張力状態で支持しながら乾燥するとしているのに対して、公知のものが鋸状突起を備えた粗面状の弾力外面を有するアプリケーターロールで塗布し、直後にブレードで被覆層の表面を平滑化し、乾燥部で乾燥している点で、相違している。

そこで相違点(1)については、ボンド紙は用紙の一種として本出願前に普通に知られたものであるから、本願のノーカーボン紙を製造するのに用いてみる程度のことは、当業者が容易になしうることと認められる。

相違点(2)については、引用例にアプリケーターロールで白土被覆組成物を塗布するが、このアプリケーターロールは転写ロールとで支持されている旨が記載されており、白土被覆組成物を塗布計量していることが示されているから、本願の塗布工程においても、引用例の塗布計量を行つてみる程度のことは、当業者が容易になしうることと認められる。

相違点(3)については、引用例に、転写ロールと計量ロールと係合するアプリケーターロールで乳化被覆組成物を塗布し、続いてエアーナイフ処理する旨が記載されており、圧力破壊カプセルの水性乳化被覆を塗布計量し、エアーナイフ処理することが示されているし、さらに、引用例には、乳化被覆を上側にしてコンベーア表面上に無張力状態に支持しながら乾燥することも記載され、そして、本願のものでは、水性化乳化被覆を施したシートの反対の下側面にはすでに白土被覆を有し、水性乳化被覆の乾燥の際に下側となつた白土被覆の方をコンベーア等の支持表面に接するように支持しなければならず、しかも支持表面が移動しているので、白土被覆が擦れないようにもしなければならないことから、両面被覆したシートを該シートとほぼ同じ線速度で移動する支持表面上に支持することは当業者ならば当然考慮すべきことと認められる。

してみれば、本願の塗布および乾燥の工程においても、引用例の塗布計量、エアーナイフ処理、乾燥の各工程を行つてみる程度のことは、当業者が容易になしうることと認められる。

また、本願発明により格別顕著な効果を生じたとは認められない。

したがって、本願発明は、引用例の記載事項および公知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。

【理由】

一請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。

原告は、先ず、審決は、本件公知例を重要な公知文献として引用し、本願発明の進歩性判断の根拠としているが、本件公知例については拒絶理由通知の手続を欠き、出願人である原告に対し意見書提出の機会を与えないままに引用したものであつて、特許法第一五九条第二項で準用する同法第五〇条の規定に違反し、違法である、と主張する。

本件公知例については、特許庁における手続として、昭和五四年一〇月一八日付拒絶査定に記載されているほか、特許法第五〇条の規定に基く拒絶理由の根拠ないし内容として引用して通知する手続に及んでいないことは、被告も明らかにこれを争わないところである。

そして、前提審決理由によれば、審決は、本願発明に対する進歩性の判断として、先ず本件公知例の技術と対比して一致点及び相違点を挙げ、次いでその相違点の個々について検討し、相違点(3)に及んで乳化被覆の塗布計量、エアーナイフ処理、乾燥の各工程について引用例記載の技術を引用していることが明らかである。右判断構成にてらし、<証拠>を総合して検討すると、審決は、本件公知例を、技術水準を示す一般的な従来技術ないしは横断的な周知技術を示す類いのものとしてではなく、その感圧性カプセル被覆層の形成に関する具体的な技術の工程ないし構成内容を分析し、本願発明の進歩性の根拠を問う重要かつ基本的な先行技術として引用対比しており、まさに拒絶理由の一つというべく、これに対して、前記拒絶査定の記載は、本件公知例および引用例とも異つた二つの公知文献を進歩性否定の根拠とする昭和五三年一一月二七日付拒絶理由通知書記載理由を維持する拒絶理由の備考欄に、「なお、感圧複写紙を連続工程で製造することは、必要であれば米国特許第三、四八五、二〇九号明細書の添付図面を参照されたい。」とするのみであつて、審決の具体的な引用内容に対応した実質的な拒絶理由通知の態を備えているとは到底認められず、この点に関する意見書提出あるいは補正(特許法第一七条の二、第一項三号)の機会を与えなかつたものといわなければならない。

そうすると、その余の判断に及ぶまでもなく、本件審決は、拒絶理由を欠いたまま本件特許出願を拒絶すべきものとしたことになり、重大な手続違背があり、違法なものであつて、取消を免れない。

(舟本信光 杉山伸顕 八田秀夫)

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